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舞台挨拶
【14:07】

ギャグは滑り気味に、オープニングアクトが滑り出す。映画本編中の印象的なシーンをパロディ調にダイジェストしつつ、上映マナーアナウンス的な内容も盛り込み、ショートコント風にオチを付けて締めるという「仕掛け」だったのだけれど、ゼロベースの観客が開幕一発目に見せられるものとしては、少し仕掛けが凝りすぎていたようにも思う。入念なリハーサルを何度も繰り返した生真面目さが、オモシロの空気を弾ませなかったのかもしれない。
とはいえ「普通の舞台挨拶付き上映会とは違う特別な何か」が始まった、という空気になり、生身のキャストが出迎えてくれたという気分にもなった。本編上映へのイントロとしては充分に効果的だったんじゃないかと僕は思う。そして『真言アイロニー』の上映が、始まった。

【16:35】

エンドロール後の拍手が鳴り止んで、客席の照明が明るくなると、出演者舞台挨拶まで小休止の時間がある。僕はいつも映画の上映後には、その映画館のロビーをゆっくり歩くようにして、尿意がなくてもトイレに行く。映画を観終わった人の口からふっと漏れる感想を、耳に拾えることがあるからだ。
SNSや映画レビューサイトに書き込まれる感想には、投稿者の立場や知識によって何らかの加工や忖度が施されるものだけど、上映後のロビーやトイレで交わされたり漏れ出したりする言葉や表情は、純度の高いその作品への評価だと思うのだ。
ホールを出て、2階ロビーを横切り階段を降りる途中、「ヤバい、超良かった!もう1回観たい」という声が聞こえた。

舞台裏
【16:48】

楽屋から舞台挨拶に向かう出演者たちの後ろ姿を写真に撮れたらいいな、と思って。ロビーから楽屋への通路を曲がるとメイクと衣装をキメた出演者何人かとすれ違う。その女優の方たちが、皆キレイなことに驚いた。文章にするとなんだかアホっぽいけれど、男優の方たちは皆カッコ良く、女優の方たちは皆キレイだった。今朝9時過ぎ、ロビーに集合していたときには「案外普通な感じ」だったのに、舞台に向かってに歩き出す彼ら彼女らは、ラオウや超サイヤ人が体の周りに放つビカビカなオーラのようなものを確かに身に纏っていた。
「カッコイイ」や「キレイ」は、俳優部の「仕事」であり「技術」なんだなと改めて感じながら、後ろ姿を見送った。演じた役の大小や贈られた花束の多寡はそれぞれにある。でも全キャストで登壇した舞台挨拶は、全員がそれぞれにカッコ良く、キレイだった。

真言アイロニー舞台挨拶
【17:22】

退出する観客をキャストやスタッフが見送る2階ロビー。笑顔とピースサインと、サインペンとフラッシュが飛び交った。この時間だけは、僕はいち映画ファンとして過ごさせてもらうことにした。映画の感想を、その作り手や演者に伝えられることはとても楽しいことだし、それを喜んでもらえることも嬉しい。そして今回はキャストも等しく「この映画を初めて観た者同士」だったから、「演者としてではなく観客として本作をどう感じたか?」をそれぞれに聴いてみたりもした。
「登場人物たちと年齢も近いので、たくさん思うところもありました。それに自分を重ねて、もっと新しいことに挑戦してもいいんだ!という気持ちになれたけど、それは時が経つと忘れてしまいがちだから、そんな時にまた観られたらいいなって思います。」

とあるキャストの言葉が胸に響いた。

『真言アイロニー』という映画が、例えばタンポポの綿帽子のように、今日の上映で満席800人分の種子を飛ばしたとするならば、それを「私の映画」として受け取った人たちの心の中で、いつかまた夢や勇気の花を咲かせることもあるかもしれない。映画や音楽や絵画や本など「表現」の力を信じる気持ちになるのはこういう時だ。作品が人に届くというのはこういうことだ。

【ライター:ウシダトモユキ】
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1972年8月11日生/映画ライター・行政書士
映画ブログ・ポッドキャスト『無人島キネマ』  
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